20040803句(前日までの二句を含む)

August 0382004

 空港に眼鏡の力士雲の峰

                           吹野 保

語は「雲の峰」で夏。気象学的には積乱雲を指し、その壮大さはまさしく雲の峰だ。一読、虚をつかれた。いや、作者も同じ気持ちだったかもしれない。言われてみれば、なるほど「力士」にだって近視や乱視の人もいるだろう。かつて名横綱と謳われた双葉山が安芸ノ海に70連勝をはばまれたときは、よく見えないほうの目の死角をつかれたのが敗因だったという。が、土俵では誰も眼鏡はかけるわけにはいかないから、私たちは先入観として力士と眼鏡はなんとなく無縁だと思い込んでいる。それが、かけていた。思わずも彼を見やると、まぶしそうに夏空を見上げている。眼鏡がキラキラと光っている。いっしよに見上げた大空には、大きく盛り上がった真っ白な雲がにょきにょきと聳えたっていた。広い空港と雄大な雲と大きなお相撲さんと……。この取り合わせが何とも言えず気持ちがよく、作者はしばしそれこそ大きな気持ちに浸ったことだろう。こういう句は、とても想像では出てこない。実景ならではの強さがある。元気の湧いてくる句だ。『新版・俳句歳時記』(雄山閣出版・2001)所載。(清水哲男)




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